がんがまだ不治の病だった頃ーがん病棟をリポートした『ガン回廊の朝(あした)』(柳田邦男著)や黒沢明監督の映画『生きる』のような深刻さはないとはいえ、がん病棟は今も人生の儚さや辛さを感じるのは変わらない。
私が月に一度、抗がん剤治療を受けてきた徳島大学病院東館7階病棟は消化器外科の患者ばかりだ。
大半が胃や大腸、肝臓がんの患者で、いわゆる『がん病棟』といっても過言ではない。そしてステージ3や4などの深刻な病状の人も多い。


昨年5月から月に数日間、お世話になっているが、1年半も通うと同じサイクルで顔を合わす人も多い。
互いの病状を伝え仲良くなった人もいるが、合う度に衰弱していく人もいる。そして突然、2度と合わなくなる。
こんな時は同じ癌患者として切なくなることもあった。

基本、4人部屋だが元気なメンバーの時はいいが、大手術前で不安そうな人。抗がん剤の副作用で吐き気に苦しんでいる人もいる。
夜通し『せこい…』とか『痛いわ〜』とのうめき声が絶えない人もいる。看護師さんが頻繁に声をかけているのは、気の毒で聞く方も結構、苦しいものがある。
以前、同室のオヤジが『わしは2年と余命宣告された。抗がん剤の副作用で苦しみながらは嫌や』と元気がないから、
『自分は昨年5月、胃がんが肝臓やリンパにも転移し余命6ヶ月だったけど、もう3倍生きてるよ。それもこんなに元気に』と言うと、顔にパッと笑顔が。
そして、
『余命2年ならここのドクターに任せたらへっちゃらで4年や5年は大丈夫!そうなれば余命じゃなく寿命だよ。だから抗がん剤治療は今は頑張った方がいい』
と励ますと『そうやな!』と。
少しは安心してくれたのか、その晩は大きなイビキをかいていた(笑)
私がこの病棟に入った時は完全な末期がん患者で恐らく、自分が最重症患者の1人だったのは間違いない。
担当看護師さんに『僕がこの病棟では横綱級やろ?』と尋ねたら返事をしてくれなかったから多分、そうだったんだろう。
今は恐らくこの病棟では1番、元気なオヤジだとドクターも看護師さんも思っている。
ドクターはもちろんだが、がん病棟での勤務は看護師さんたちも精神的にかなりキツいのは間違いない。
それなのにいつもハイテンションで変わらぬ笑顔で接してくれることは、当たり前のことじゃないと、いつも思う。
もりもとなおき