ボブディランがノーベル文学賞を受賞したり、ユーミン、松任谷由実が菊池寛賞を受賞したり、われらが世代が何十年間もずっと支えてきたミュージシャンが文学にも直結する大きな賞を取ってくれるのは、誇り高い思いだ。
菊池寛賞については2013年にもサザンオールスターが受賞しており、われわれが口ずさんできた歌は詞だけでなくメロディーさえも文学だったということを改めて実感している。
ユーミン自身『5分であじわえる短編小説をつくるつもりで、たくさんの歌をつくってきた』と語っているから、やはり文学なんだろうと思う。
雨の情景が肌にも感じ、ストーリーをつくる
ユーミンの歌は全て好き過ぎるくらいだが、特に雨を歌った作品が好きだ。
アルバムひこうき雲に入っていた『雨の街に』コバルトアワーに入っていた『雨のスティション』14番目の月に収録されている『グッドラックアンドグッドバイ』だって雨の日の元恋人たちの偶然のニアミスを歌った作品だ。
『歌は雨のにおいや風の色を運んで人々に届き、思い出に刻まれる無限のストーリーになる』と、語っているが、確かに情景を肌で感じる作品ばかりだと思う。
ユーミンは恋の歌もたくさん歌っているが、恋は成就しない。結構、失恋ソングが多い。
その代表的なものは『翳りゆく部屋』『destiny』『パールピアス』『リフレインが叫んでる』『青春のリグレット』『ダイアモンドダストが消えぬまに』などかな。
パールピアスは別れの日、自分の大切はピアスのひとつを、彼のベッドの下に隠してくる(次の彼女に発見されるように)という、男からしらた大変、恐ろしい歌だ。
リフレインが叫んでるは、叶わぬ恋なのに僕らは出会ってしまったと。だから壊れるほどきつく君を抱きしめてみた…というユーミンにはない激しい歌だった。
セレブなのに普通の女の子の情感を生み出す名人
ユーミンのうたの特徴は、自分はセレブで生活感はないのに、歌の主人公はごく普通の女子大生やOLだと言われる。
だからユーミンの耳はダンボ説が誠しやかに流れた。これはユーミンが深夜のファミレスなどにひとりで行き、女子大生やOLの会話を、耳をダンボにして聴き、それを詞にするという都市伝説。
もちろんそんなことはする訳ないが、それほどユーミンが普通の女の子たちの気持ちを掴んでいたというエピソードだ。
自分の歌が"詠み人知らず"として永遠に残ることが理想というが、古典になることなくずっと歌い継がれ、聴き継がれると思う。
さらなる"作品"を期待したい。
もりもと なおき