いまさらながらイルカのベストアルバムを買った。何十年ぶりにYouTubeで『あの頃の僕』(詞曲とも伊勢正三)を聴いて胸がいっぱいになったからだ。
レコードはもちろん、カセットテープでのアルバムは持っていたが、聴くことができない。

名曲『あの頃の僕』はまさに"あの頃の僕なのだ"
『あの頃の僕』は1974年リリースのイルカのデビュー曲。年代的にも歌の内容もまさに"あの頃の僕"なのだ。
君はもうこの古いアルバムの中の
想い出のひととして
小さな灰皿の中で燃えてゆくのです
君の長い髪はとても
素敵だったと言いたかった
別れた彼女の写真を、未練を断ち切るために灰皿の中で焼いているのだろう。そして燃えていく写真の彼女の長い髪にまた未練が…
自分は歌のように、写真を燃やすことはできなかった。未練がましく宝物箱に取っておく方だった。

イルカが歌っても詞の第一人称は『僕』の失恋だ
イルカの歌ではあと、『なごり雪』と『雨の物語』が、たまらない。
いずれも伊勢の正やんの作詞作曲。女性のイルカが歌うけど、第一人称は『僕』なのだ。
3曲とも切なくも悲しい別れの歌。歌の中の『僕』は初めての東京での生活で、貧乏学生ながらも彼女ができる。しかし未熟だから女の子の扱いも気持ちもわからない。そして行き違いは多く、まだこんなに好きなのに別れてしまう。
いずれも僕がもう少しおとなだったら、女の子の気持ちがキチンと理解できていたら、こんな悲しい別れにはならなかったのに…みたいな歌だ。
ウジウジした男の気持ちを爽やかな詞にする伊勢正三は天才だ
去年よりずっと綺麗になった♫…『なごり雪』
化粧する君のその背中がとても小さく見えて仕方ない♫…『雨の物語』
男は未練たらしいなぁと恥ずかしくなるが、女の子の気持ちを少しずつ理解しながら立派な?大人の男になったのかもしれない。

しかしウジウジした男の気持ちを、ここまで爽やかに詞に書いた伊勢正三はやはり天才かリルケ以上の詩人かもしれない。
もりもとなおき