フランシスコローマ教皇の心を揺さぶった1枚の写真『焼き場に立つ少年』。3年前、平成29年の年末、教皇がこの写真に、みずからの署名と「戦争がもたらすもの」というメッセージを添え、世界の教会関係者に配布するよう指示したことから再び注目を集めた。

戦争の悲惨さ、残酷さをこれほど強烈に訴えた写真はあるだろうか
12年前、この写真が日本で初めて公開された時、少年がおぶっている赤ちゃんはてっきり眠っているのだと思った。
しかしすぐに説明を聞き、少年は長崎に投下された原爆によって殺された弟を背負って、火葬の順番を待っているところだと知った。
まだわずか10才くらいの少年だ。恐らく両親も亡くなったか、行方不明になったんだろう。
でなけりゃこうしたことにはならない。
泣きたくても涙は流さない。そのかわり唇を噛み締めている様子で少年の辛さ悲しさ、悔しさが否応なく伝わってきた。
両手の平を揃え、ビシッと気をつけをし、真っ直ぐ前を向いた少年の毅然とした様子に、戦時中の教育までひしひしと伝わっていると、私は感じていた。
そしてこの写真を見た時、辛過ぎて最後まで観ることができない、映画『火垂るの墓』(野坂昭如原作)が浮かんできてしょうがなかった。

米従軍カメラマンが撮影、40年以上も経って公開された
この写真はアメリカの従軍カメラマン、ジョー・オダネル氏が、原爆投下があった長崎市で終戦直後、撮影したものだ。公開されたのは1990年だから帰国して40年余りが過ぎていた。
日本には2007年、長崎市にある長崎県美術館で「焼き場に立つ少年」として特別公開され、市に寄贈された。
今ももちろん原爆資料館に展示されている。
オダネル氏は、写真についてすでに亡くなった弟を背負った少年を写したものだとし、このあと少年が見つめる中で弟は屋外で火葬されたと伝えている。
フランシスコ教皇は24日、長崎の爆心地公園での核廃絶などを訴えるスピーチのあと、オダネル氏の息子と話しをした。

ローマ教皇の目に留まった一枚の写真。教皇のメッセージと「この少年は血がにじむほど唇をかみしめて、やり場のない悲しみをあらわしています」という説明も添えられている。
もりもとなおき