徳島ラジオ商事件再審で、無罪じゃなく"無実"と言った裁判長の正義
再審裁判の原点の一つでもある徳島ラジオ商殺し事件の再審裁判の判決の日の感動を、私は今でもはっきりと覚えている。

当時の徳島地裁の裁判長は無罪を言い渡したが、判決文の中で『無罪というより無実だ』とまで表現。かつての先輩裁判官らの過ちをきちんと認め、完全な冤罪事件であったことを認定した心あるひとことだった。
また裁判長は殺人罪に問われ服役した再審請求者、富士茂子さんに対しては『無限の砂漠をたったひとり、あてもなくさまよい…』など、冤罪被害者の苦しみにまで思いを馳せた。
冨士茂子さんは再審請求の途中、無念の死を遂げたが、再審請求は兄弟姉妹が継承。わが国初の死後再審でもあった。
若い記者たちはみんなが泣いた再審判決
当時、徳島にいた若い記者たちは、みんな亡くなった冨士茂子さんやこの再審裁判に思い入れが深かった。
正午のニュースで全国に再審無罪を知らせた同期のNHK記者U君が、泣きながらリポートしたのを昨日のことのように思い出す。
私は『小さなからだでたったひとりで厚い再審のとびらを叩き続けた…』みたいな書き出しで社会面を書いた。
とにかくこの再審裁判の判決では法律家としての裁判官の、人間的な温かさ、良心を見た思いがした。
検察が求刑放棄なら、ひとこと謝罪あってしかるべき
さて、この度の大津地裁での再審裁判。この検察のやり方には法律家としての誠意や正義感のかけらも感じなかった。
2003年、滋賀県東近江市の湖東記念病院で、男性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして殺人罪に問われ、懲役12年が確定。服役した元看護助手西山美香さん(40)の裁判をやり直す再審の第2回公判が大津地裁(大西直樹裁判長)で開かれた。

ところが検察側は論告で『取り調べ済みの証拠に基づき、適切な判断を求める』と述べるにとどまり、求刑を放棄した。
これで西山さんの無罪はほぼ確定したが、1人の人間を12年間も刑務所に入れ、人生を奪ったんだ。
求刑放棄に対し一言、ことばがあってもしかるべきではないのか。理由なき求刑放棄などあっていいはずはないだろう。
検察が体質改めない限り、冤罪事件は無くならない
きちんと間違いは認め謝罪してこそ、検察への信頼を取り戻すこともできる。現場の判断じゃなく当然、最高検からの指示もあるんだろう。
こうした検察の体質を改めない限り、冤罪事件は無くならない。
日弁連が支援し、再審公判が開かれた刑事事件は全国で今回以外に17件で、全て無罪が確定している。
もりもと なおき