先輩に叱責されて心に残った2つのことば
新聞記者をしている時、仕事上のことで先輩や上司に怒られたことはあまりなかったが、事件記者時代の先輩から叱責された時の忘れられないことばが2つある。
ひとつは『俺たちの仕事は無駄の積み重ねや』
もうひとつは『お前が熱を出しとる間は、警察の捜査は止まるんか!』
だった。
今だ亡くなった先輩の40年も前の声が私の耳に残っている。挫けそうになった時やものごとを投げやりにしそうになった時、必ずこのことばを思い出した。
良い記事を書くためにどれだけたくさんの無駄を重ねるか
ひとつ目のことば。新聞記事を書く時は実際には100のことを調べ、記事にするのはそのうちの5つか6つだ。調べたことが浅く薄いと読者の心を動かす記事は書けない。
しかし時にはデーリーワークの忙しさにかまけ、めんどくささも手伝って上っ面だけの薄い記事を小手先で仕上げる時があった。
そんな私の性格を知ってる先輩は私の手抜きを見破り、無駄を積み重ねろと厳しく教えてくれたのだ。
責任を果たすことは自身の如何なる事情より重い時もある
2つ目は真冬の寒い朝。私が39°8分の熱を出し、早朝の6時過ぎからの張り込みに行かなかった(とてもじゃないが無理だった)時のこと。
幸いその朝は警察の事件着手はなかったが、私が行っていなかったことを知った先輩が私の言い訳に烈火の如く怒ったのだ。
それはそうだ。私が高熱だからといって警察は事件着手を待ってはくれない。その朝だけのことで、それまでの皆んなの努力がパーになる。
今なら完全な先輩のパワハラかもしれないが、私は仕事の厳しさを教えてもらったと後に感謝した。

たゆまぬ努力の大切さと責任の重さを学んだ
先輩が言ったように、自分の体調が悪いからといって警察はむろん社会の動きは自分を待ってくれない。
自分にどんなことがあっても新聞読者に新聞を届ける、ニュースを届けるということは、それくらい重要なことなのだ。
無駄の積み重ねは日々のたゆまぬ努力。そして高熱でもやらなければならない責任感。
誰もが真似をする必要は全くないが、私は社会人スタートの20代に貴重なことを学んだと思っている。
もりもとなおき