『私の現場主義の成果…遺体の傷の位置で殺人を確信した城山殺人事件』
徳島市の城山の参道で、夕刻、散歩中の老人が倒れ、亡くなっていたという事案があった。
記者クラブには簡単な概要が入ったが、記者らは単なる行き倒れと判断したのだろう。記者クラブには何社か残っていたが、それ以上取材せずに会社や支局に引き上げてしまった。

私は少し気になったので現場へ行ってみた。すると発電機まで使ってライトを照らし、かなり細かな鑑識をしている。普通の行き倒れではここまではしない。
直ぐに徳島東警察署に行くと、たまたま徳島大学医学部へ解剖に向かうため、霊安室からクルマに乗せようとするホトケさんを目撃した。
この老人は禿げ頭だったが、何と頭のてっぺんに大きな傷が。普通、前に倒れても後ろに倒れても頭頂部に傷はできるわけがない。
私は間違いなく頭頂を何かの凶器で殴られたとものと判断した。
そして警察からの発表は未明までなかったが、私は"殺人事件"と断定し朝刊を降板した。

新人記者の私の記事に対し、サツ経験のない無能なデスクが『警察が殺人と発表してないのに大丈夫なのか?』と、しつこくボツにするような問い合わせをしてきた。
これにキャップだった平野先輩が『森本がきっちり取材した記事や。そのままいってくれ!』と強く押してくれたので、気の小さなデスクも渋々、出稿した。
そして警察が『殺人事件』として記者発表したのはすでに翌日未明。朝刊に"城山で老人殺害"との記事を掲載できたのはわが社だけ。当然、特ダネとなった。
この犯人はこのわずか3週間前、三好郡池田町でも一人暮らしの高齢女性を殺害していた。ともにカネ目当ての強盗殺人事件だったのだ。

犯人は1983年に死刑判決が確定し、1995年に死刑が執行された。もうこの世にはいない。
警察取材は現場が重要なことを今更ながら再認識した事件だった。刑事らの仕事ぶりを見たら分かることは多いのだ。
私の自慢はどんな些細な事件でも電話取材は絶対、しなかったこと。今の新聞記者連中、特に大手紙はこの当たり前のことをしないヤツがあまりに多い。
(写真は逮捕された当時の元死刑囚と、犯行のあった城山の参道)
もりもとなおき