取り調べの可視化、容疑者と捜査当局、双方に良い事だ
ずっと以前、取り調べの可視化が話題になった時、実は私は反対だった。自白の強要あるいは誘導などはもちろんあってはならないことだが、それ以上に取り調べに当たる刑事らが、萎縮してしまうことを心配した。
何故なら取り調べ室で待つ容疑者はいつもいつもウブな初犯ではない。前科を重ねた海千山千の犯罪のベテランは多く、カメラを意識した通り一辺倒の調べで果たしてキチンとした調書が取れるのかと、心配したからだ。
ベテランサツ記者だとずいぶん警察、検察的な考えになってしまったなあと、自分で苦笑いしたが、やはり刑事警察そのものが時代の移り変わりの中で、刑事の資質も変わってきたのを感じていたからだ。
すでに検察は導入していたが正式にスタートしたが、課題は多く
さて、殺人など裁判員裁判の対象事件と検察の独自捜査事件を対象に、取り調べのすべての過程の録音・録画を義務づける、新たな制度が先月から始まっている。


これは元厚生労働省の村木厚子さんのえん罪事件などがきっかけとなった刑事司法改革の柱のひとつ。
検察は、対象事件のほぼすべてについて、すでに全過程を録音・録画しているほか対象以外の多くの事件でも積極的に取り組んできたという。
平成29年度の実施件数はおよそ10万件に上っているから事実上、取り調べの可視化は進んでいたわけだ。
そして最高検察庁は、取り調べをめぐるトラブルの防止に録音・録画は効果を上げているとみている。
取り調べ映像を法廷で上映すべきか否か、まだ議論必要
一方、私はここが最も大切だと思うんだが、自白場面が録画された映像を有罪の立証のために利用するか否か、実は判断が分かれている。
これまで取り調べの映像が上映された裁判では、自白の様子などから被告の犯行を認定したケースが複数あった。
一方で印象に基づく直感的な判断になる可能性があるとして、映像で自白の信用性を判断することを違法と指摘した判決も出ているから、まだまだ結論は難しい。
つまり取り調べを可視化し、録画・録音する意味は、あくまで自白強要など違法な取り調べを防ぐための方法。
即、取り調べ室の自白を法廷での判断に繋なげてはならないということだろう。
検察は映像を有罪の証拠として利用したい考えだが、さらに議論を深めていく必要がある。私は自白調書を補完する意味でも、取り調べ映像や録音は法廷でも検証されるべきと考えたい。
もりもと なおき