日中国交正常化から50年。
それから遡ることの6年前、日本の大人から中学生まで、『英雄(ヒーロー)』という中国製万年筆がバカ売れしたことがある。
その頃、日本の主要都市では『中国展』(中華人民共和国経済貿易博覧会)が順次、開かれ、その目玉の一つがこの万年筆だったのだ。
どうして売れたかというと、外観からペン先に至るまでアメリカの高級万年筆、パーカーとうりふたつだった。
それでいて価格は当時で300〜400円。中学生のお小遣いでも買えたから、中国展の開かれた都市では、瞬く間にブームとなった。
ちょうど中学2年の1966年の11月19日〜12月11日。名古屋でも自宅からバスで10分くらいの、昭和区の吹上ホールという巨大アリーナみたいな場所で中国展が開かれた。

まだ貧しかった毛沢東の国。面積と人口だけは巨大な共産主義の国。近代化にブレーキをかける文化大革命が始まった年だったと思う。
様々な興味が重なって、大人も子どもも押しかけ、中国展は大盛況だった。
当時の記録を見ると名古屋会場だけで入場者はなんと216万余人。当時の名古屋の人口が200万人だから、いかに多くの人が詰めかけたか。
先に行ったクラスメイトが買ったヒーロー万年筆を見せてもらい、自分も会場では万年筆売り場へ一目散に。
皆んなと同じ400円のものを買い求めたのを思い出す。

オヤジが持っていたパーカーとそっくりで、なかなか書きやすかった。

このほか文化大革命の時、紅衛兵のバイブルとなった『毛主席語録』も売れ、学生運動の活動家の間にも広がった。

すでに国交正常化への足音が聞こえていた。
もりもとなおき