『私の旅立ちに"いっぽんどっこの唄"で勇気づけてくれた女流し、たみちゃんの優しさ』
徳島の歓楽街でギターを抱えて歌っていた女流しのたみちゃんが、経営するカラオケスナックで30年前、私に贈ってくれた歌で忘れられないものがある。
水前寺清子の『いっぽんどっこの唄』だ。


まさに県議会議員選挙に出馬するため、新聞記者として16年間勤めていた会社を辞めた日だった。
歌詞が身に染みたし、この唄を歌って勇気づけてくれた、たみちゃんの優しさに感涙したのを覚えている。
記者時代は十二分に活躍できたが、これも多くの先輩たちが私に大きな仕事を任せてくれたからだ。
入社試験の日、良かったら来いよと内緒で小遣いまでくれた森田社長。事件記者として一人前にしてくれた川上さん、ターさん、平野さん。
そして自分の人脈を惜しげもなく紹介していってくれた後の県公安委員長の工藤さん…
私を盛り立て、守ってくれた大きな樹の下からひとりで旅立つ不安はあった。しかしそれ以上に、人生をひとりで闘っていく熱い興奮さえ感じている時だった。
一本どっこ…元来、極道の言葉だ。大組織の傘下から離れひとつの小さな組、個人で極道稼業をやっていくことを意味するようだ。
例えば『組を離れて一本でいく』とか。
ある意味、男の心意気や男気を表現するらしい。
もちろん選挙に出ることはそんな意味とは全く異なるが、私の人生においてはまさに"一本でいく"初めての経験だったのだ。
今は亡きたみちゃんのコブシの効いた歌声が今も蘇ってくる。その時は明日からの戦いにどれだけ勇気づけられたことか。
癌との壮絶な戦いを続けている今、脳裏にたみちゃんの唄が響いている。顔を見る度に言ってくれた『なおきちゃん、頑張りよ〜』って。
"何は無くとも根性だけは、俺の自慢のひとつ"なのだ。
いっぽんどっこの唄 星野哲郎作詞
ぼろは着ててもこころの錦/どんな花よりきれいだぜ/若いときゃ二度ない/どんとやれ男なら/人のやれないことをやれ
何はなくても根性だけは/俺の自慢のひとつだぜ/春が来りや夢の木に/花が咲く男なら/行くぜこの道どこまでも
もりもとなおき