『東京の魅力を知った外苑の銀杏並木とハイソな短大生』
大学に入っても当初は肉体労働系の日雇いのバイトばかりしていたから、せっかくの東京の街の魅力はほとんど知らないままだった。
知っているのは大学のある高田馬場とせいぜい新宿歌舞伎町、渋谷道玄坂くらいで、まだ銀座や六本木、西麻布、赤坂や原宿など、足を踏み入れたこともなかったのだ。
ちょうどその頃、クラスの東京出身の友人の紹介で知り合ったばかりの女子学生がいた。"立教女学院"という名前を聞いただけで麗しい短大の2年生だった。
ずいぶん大人っぽくハイソで、彼女にするには自分にはとてもじゃないがちょっとランクが高すぎる"無理め"の女の子だった。
しかし東京の魅力を初めて教えてくれたのは彼女だった。たまに会うとレモン色のクルマで颯爽と現れ、洒落た街や小洒落たカフェに案内され、夢のようなひとときを過ごしたものだ。pizzaを始めて食べたのもこの時だったような気がする。
ちょうど11月も半ばだったと思う。『今、綺麗だから外苑に行こっか』というから任せていたところ、記念絵画館から続く何とも美しい銀杏並木に。これが神宮外苑か…と思いながら並木の下を2人で歩いたが、まるで映画の世界にいるようだった。


それからだ。東京には田舎以上に四季があり、銀杏並木はもちろん女性たちのファッションやイルミネーションでも季節の移ろいを敏感に感じることができる魅力的な街なんだと、分かったのは。
その女子学生とはそれ以上、何もなく、間もなく自然消滅したが、東京の素晴らしさを教えてくれたことを感謝している。
ときは1973年の晩秋。もう外苑の銀杏の葉は散り始めていたが、街には南沙織の『色づく街』が切なく流れていた。もう時期だな。
もりもとなおき