『日本柔道大野将兵に感銘を受けた強さと精神性の高さ』
インドからのデルタ株が世界中で猛威を振るうのは分かっていたから、この7月のオリンピックの開催は反対だった。
せめて来春に延期できないものかと。3兆円を超える五輪予算、組織委員会に関わる不祥事や、関係業者の莫大な金額の中抜きにも、心底、腹が立っていた。
しかしいざ始まってしまうと日本人選手の活躍は気になるし、とりわけ今回のようにメダルラッシュが続くと感動の嵐だ。開会までの運営の酷さはさておき、やはり私も昔気質の日本人だ。心は選手たちと一体となってしまう自分に照れながら、応援している。
私はとりわけ日本柔道にずっと注目していた。元金メダリスト、井上康生がジャパンの監督になって以来、日本柔道はより強く、選手たちの柔道家としての精神性が高まってきたような気がしていた。間違いないだろう。
とりわけ私は73k級の大野将兵にリオ以来、注目してきたが、この度、東京の畳に上がった大野を見て深い感銘と感動さえ覚えたのだ。一部の隙もなく、不屈の武道家の面構えになっていたではないか。

戦いのワザのキレは当然だが、圧倒的に勝利しても畳の上ではニコリともせず、相手選手には抱擁してファイトを讃える。
長い延長でやっと決着がついた決勝など小躍りしたりガッツポーズが出ても許されると思うが、試合前のクールな顔つきのまま。最後は深々と一例し、試合場から完全に降りるとコーチに抱きつき、やっと青年の素晴らしい笑顔を見せた。
大野をみて分かったのは、柔道は畳の上での力だけの勝負じゃない。厳しい練習で磨いた精神性と、同じように戦ってきた敗者への思いやりこそが柔の道だと理解できた。
大野はリオの後、柔道は完全休養し、1年間、大学院の修士論文執筆に力を尽くしたという。こうした決断ができることも、大野の意識の高さだろう。
試合後東京五輪について「賛否両論あることは理解している。われわれアスリートの姿をみて、何か心が動く瞬間があれば光栄に思う」と話した。多くのアスリートの同じ質問への回答をきいたが、やはりピカイチだった。

将来、この男が指導者になれば、日本柔道はこれからも不滅であることを確信した。
(金メダルを首にやっと見せた爽やかな笑顔)