私のように事件記者として極めて有能だと、時に失敗することもあった。
県警が内定していたある贈収賄事件の時だ。
贈賄側の土建屋の社長を早朝、引っ張る情報を得て、私は朝の6時くらいから彼の自宅近くに張りこんでいた。
汚職事件は必ず被疑者を引っ張る写真が不可欠だから。
だいたい贈収賄事件は朝の6時半頃、被疑者宅を捜査員が訪れ、任意同行を求めるのが通常だった。
しかしこの時、私が被疑者宅に到着したら捜査員はまだ来ていない。クルマから被疑者宅を伺っていたらその社長が表に出て来たではないか。
そして近寄って来てクルマの中の私を覗き込み『こんなとこで何やっとるんや⁈』と。
私は焦ってしどろもどろとなり『あ、友だちを待ってて…』と、ピンと外れの返事を。
すると社長は助手席のNikonを見て『そのカメラはなんや?』
私もこれはまずいと慌てて家から離れたが、何とその社長も自分のクルマに乗り込み、猛スピードで走り去ってしまった。
新聞記者であることがバレてしまったようだ。
捜査員が来たのはその直後だ。私は逃げる訳にもいかず捜査員にきちんと説明すると、ひとりが本部へ無線連絡を。
聞いていたら『われわれより先に着いた森本記者が被疑者に見つかり、被疑者は逃亡した模様…』云々と。
『俺のせいや!』『俺が逃がしてしまった』ということか!
これで社長が見つからなかったら事件は潰れる。悲観して自殺でもしたら…責任を感じ焦りまくったが、昼過ぎに二課の次長から私に連絡があった。
『モーさん、被疑者は署に出頭しました。今度は相手にバレんように張り込みたのんますと。
(写真はその頃の僕)
