かつてない現金買収事件に発展している。東京地検特捜部は公選法違反(現金買収)容疑で前法務大臣の衆院議員河井克行容疑者(57)=広島3区=と妻の参院議員案里容疑者(46)を逮捕したが、これまでのところカネを渡された広島県議らからは1人も検挙者は出ていない。おかしいとの声が上がっている。

なぜ?現金を受領した地方議員の検挙者はいまだにゼロ
これまでの調べでは、夫妻から案里容疑者を当選させる目的で票の取りまとめを依頼され、94人に2600万円近くが配られたと、されている。まさに前法務大臣の犯罪であり、未曾有の選挙違反事件となってきた。
このうち40人が広島県議や市議ら地方議員とされているが、通常の選挙違反捜査では現金の授受があった場合、双方を検挙するのが当たり前だ。
河井夫妻に現金買収容疑をかけながら、まさか受け取った議員らが罪に問われないのは公選法上、有り得ないからだ。さらに議員らから事情聴取を行うべきだろう。

夫妻は陣中見舞いとするも、受領した本人は買収の認識も
夫妻は現金を県議や市議に渡したことについて、『統一地方選の陣中見舞い』と、しているようだ。
しかし受領した側の何人かはこれまでの検察の調べに対し、渡された現金について『案里容疑者の選挙応援の依頼と受け止めた』などと、供述、買収の意図があったことを認めているという。
だからカネの趣旨が票の取りまとめであるとして、夫妻を公選法違反容疑で逮捕できた訳だ。


実質的な『司法取引』を疑う声は出るはずだ
しかしここで疑問の声も上がっている。県議らが買収されたとの認識があれば、当然、彼らも公選法違反に問われる。
そして立件され罰金刑以上になれば公民権停止となり、彼らも失職する。だから普通は夫妻と同じく『陣中見舞いの認識だった』と主張するはずなのだ。
しかしそれにもかかわらず買収目的のカネだったと認めた背景には、検察との"司法取引"があるのでは、との見方だ。
もちろん公選法違反には司法取引はないが、恐らくきちんと供述したら起訴猶予にするくらいのニュアンスの実質的な司法取引があったのかもしれない。もちろん双方、それを認めるはずはないが。今後議員の立件がなければ、そのように取られても致し方ない。
もし誰も議員が立件されずに夫妻だけが起訴され裁判となれば、夫妻の弁護士は議員らの取り調べの合理性について、厳しく突いてくるのは間違いない。私が夫妻の弁護士なら間違いなく、その点を突いていく。
前大臣という"巨悪"逮捕が絶対だったのは理解できる
もちろん連座制を適用されるのが確実な案里はともかく、前大臣という"巨悪"である克行を逮捕、確実に起訴する意味でも検察のやり方は十分、理解できる。
また一方で県議、市議に失職者が続出すると、地元政界が大混乱するとして、検察が配慮したとの見方もある。
これだけの県議、市議が大量に現金を受け取った事実。さらに克行から一度も陣中見舞いなどかつて無かった事実。さらに政治家以外にも渡している。
せっかくの巨悪逮捕で変なケチをつけられないためにも、さらに新たな方向に事件を発展させるためにも、特捜部には堂々、受領した県議らも検挙して欲しい。裁判は十二分に耐えうるだろう。
もりもとなおき