忘れられた知の政治と蹂躙された官僚たちの知性
この7年半、自民党政権下というより安倍政権下で一番、忘れ去られてしまったのは知の政治であったと思う。インテリジェンスある政治家が片隅に追いやられた。
そして自民党の中できちんとした国家観に基づく政策の論議は二の次となり、忖度や隠ぺい、改ざんで取り繕われてしまうことが多々あった。
そしてそうした政治主導のもと、日本が誇る官僚の高い知性さえ蹂躙されてしまったような気がする。
自民党的腹芸の裏にあった石田博英の高邁な理想
1950年代後半、総理大臣になりながら、病気のためわずか2か月で職を辞した石橋湛山という政治家がいた。
3人が出た自民党総裁選で岸信介にいったんは破れるが、岸も過半数をわずかに割る。決戦投票の結果、2位、3位連合で挑んだ石橋湛山がわずか7票差
で勝ったのだ。
実はこの2位3位連合を成功させたのが石橋の盟友で腹芸で有名な官房長官や労働大臣を務めた石田博英だ。わずかな休憩時間に多数派工作し、この歴史的な逆転劇を演出した。
こうした話しを聞くといかにも自民党政治らしいが、実は2人には共通点があった。さらに2人というより当時の若き政治家、後の総理大臣宮澤喜一も含めた3人を結びつけていたものがある。

J・S・ミル『自由論』で繋がった政治家たちもいた時代
それはイギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミルの『自由論』の愛読者としてウマが合ったというものだ。
J・S・ミルは高校の倫理社会で度々、登場した。その自由論の趣旨は
"国家を発展させるには個性と多様性、そして優秀な人材の存在を保障しなければならない。そして選挙という民主主義の政治制度は、時には大衆による多数派による専制政治をもたらす…"
みたいなことだった。
恐らくやこの3人は学生時代、この『自由論』に大いに影響を受け、政治の道へ進んだのは想像できる。
そしてまた池田勇人首相はこの宮澤喜一と同じく後の総理大臣、大平正芳の2人を秘書官として従えたから、自民党政治が知性あふれる時代であったことが懐かしい。
タカ派だろうがハト派だろうが、国家を正しく導く政治家を
タカ派であろうがハト派であろうが、知性に基づいた政治であればと願う。憲法論議が政治家の深い知性と教養に基づくものなら、何ら否定はしない。
さて安倍さんの後任として、岸田文雄政調会長、菅義偉官房長官、石破茂元幹事長、河野太郎防衛大臣、小泉進次郎環境大臣、野田聖子元総務大臣らの名前が挙がっている。

国家を正しく導くことができる、国民を少しでも幸せにできることしか、政治家に求めることはない。
そんなリーダーにふさわしい知性と教養、胆力のある人はこの中に果たしているのだろうか。開かれた自民党総裁選を期待したい。
もりもとなおき