船戸雄大被告への怒りは、みんなとどまるところがない
犯人・被告に許しがたい思いが強いほど、弁護人の意見にはアタマが沸点に達してしまう時がある。
私のように本職事件記者で、本当に凶悪な連中の裁判も傍聴取材してきたその道のプロでもそうなんだから、善良なる市民の皆さんのイラつきは、手に取るように理解できます。
しかし私の経験則では、われわれを苛立たせる弁護人ほど腕が立つような気はする。
やはり検察、メディアからの意見だけでなく、方向性の違いがある裁判こそ、被告弁護人の意見陳述にも耳は傾けるべきと、船戸雄大被告の弁護人陳述を見て改めて考えた。
起訴内容大筋認める
東京都目黒区で昨年3月、船戸結愛ちゃん(当時5才)を虐待し死なせたとして、保護責任者遺棄致死や傷害などの罪に問われた父親の雄大被告(34)の裁判員裁判の初公判が1日、東京地裁(守下実裁判長)で開かれた。
雄大被告は起訴内容を大筋認めた。
弁護人は『雄大被告は結愛ちゃんの父親になろうとしていた』と
検察、弁護人双方の初公判での意見陳述で、今後の裁判の闘い方が推察されるが、私はこの日の弁護人の意見陳述に注目した。
弁護人は初めに「虐待は決して許してはいけないことです。それでも彼(雄大被告)は、結愛ちゃんの父親になろうとしていました」と、始めた。
そして結んだのは、
弁護人「もう1つの視点があります。今回、起訴されているのは保護責任者遺棄致死罪です。殺人や傷害致死ではありません。適切な保護をしなかったことの責任が問われます。過去の経緯も無視することはできませんが、彼がしてきた虐待や、妻である優里(ゆり)さんへのDV(家庭内暴力)を裁く場ではありません」と。
つまり裁判は保護責任者遺棄致死罪を争うもの。雄大被告の虐待や妻へのDVを裁く場ではないとしたのには、驚いた。
この経過無しに結愛ちゃんが死ぬことは絶対になかったからだ。
怒り心頭のわれわれと、弁護人の雄大被告へのスタンスの違い?
また途中、弁護人は「なぜ、船戸さんがその行為をしたのか、その理由に思いをはせてほしいと思います。怒りとか悲しみ、エゴに基づく行為で、正当化できるものではありません。それでも、親でありたいという気持ちが見て取れます。決して、愉快犯的な犯行でも、連れ子が邪魔だからやったことでもありません」とも。
私たちは新聞、テレビ、週刊誌で事件を知り、船戸雄大という人間を妻への激しいDV、子ども虐待の許し難きモンスターと位置づけている。
これに対し弁護人は何度も雄大被告と接見し、彼の心の内まで見ている。
だからわれわれとは雄大被告への見方、認識が違うのは当然だが、ここまでわれわれの固定概念とかけ離れていることに本当に驚いた。
でもこれが刑事裁判であることを、改めて認識した。
それでも最高刑の懲役20年は求刑されるのでは
それでも私は検察は雄大被告には最高の懲役20年を間違いなく求刑すると考える。
弁護人の闘い方にもよるが、果たして初公判での意見陳述が、裁判員らの共感を得ることができたのかとも考える。
判決も極めて求刑に近いものになるのではないだろうか。
雄大被告が公判でどこまで心をさらけ出してくるか。そして裁判員たちはどのような判断を下すか。注目していきたい。
もりもと なおき