女子大生役の秋吉久美子が同じく学生役の高岡健二を、引越し直後でまだ片付けが済んでいない安アパートの部屋で誘った時のセリフは『部屋が散らかってる時ってやりたくならない?』だった。そして2人の同棲生活がスタートするのが映画『赤ちょうちん』だ。

『神田川三部作』は時代を語る最高の四畳半フォーク
南こうせつとかぐや姫の大ヒット曲『神田川』三部作といわれるのが『神田川』『赤ちょうちん』『妹』で、70年代に流行ったいわゆる四畳半フォークの代表作。四畳半に住む貧しい学生文化、生活がモチーフになっていたからだ。
吉田拓郎初期のメッセージソングや竹内まりやのカレッジフォーク、松任谷由実のニューミュージックとは、趣きを全く異にしていたのだ。
名曲『神田川』はイントロを聴くだけで学生時代の思い出が込み上げてくる。歌に出てくる2人が通った"横丁の風呂屋"は大学西門近くにあった安兵衛湯といわれていた。
わざわざ入りに行ったこともあったし、当時はドブ川だった神田川の辺りも歩いたものだ。


『神田川』の学生生活に憧れたが…
三部作の作詞は放送作家喜多条忠(きたじょうまこと)さん。神田川も赤ちょうちんも早稲田に在学中の自身の生活だといわれる。
喜多条さんは大阪のご出身だが、ルーツは徳島の海部郡だ。私の後輩の海部郡旧由岐町出身の喜多条君が従兄弟だと言っていた。
さて赤ちょうちんの女子大生、池間みちこ(役名)も早稲女だった。大学在学中に必ずこんな甘く切ない生活をしたいものだと思ったが、神田川の主人公と同じだったのは貧ししいところと、初めての部屋が三畳ひと間だったくらいだった。
『部屋が散らかってるとやりたくならない?』などと言ってくれる池間みちこのような女子大生とはついに巡り合わなかった。

4人で聴いた神田川、自分を残してみんないなくなった
さて神田川がリリースされたのは1973 年、大学1年の秋だった。友人の佐々木の椎名町の下宿で、僕と佐々木、小池、山崎の、仲の良かった4人でなぜかこのアルバムを聴いたことが忘れられない。

その山崎はことし3月、癌との闘病の末に亡くなった。小池もまだ50代の時に。東北に住んでいた佐々木は東日本大震災から連絡がつかない。
先日、日本人の平均寿命が発表されたが、男は81.4才で過去最高となった。こんな時代なのになぁ…『オマエら俺だけ残してずいぶん水臭いな』と思う。
生きてることはただそれだけで悲しいことだと知りました…(赤ちょうちん)とあるが、それぞれ楽しいことの方が多かった。
『神田川』三部作はやつらとの楽しくも意義のあった青春を振り返る大切な歌だ。
もりもとなおき